旧鎌倉図書館、保存へ(図書館とともだち会報173号掲載)

2015年9月1日 旧鎌倉図書館

8月24日の定例記者会見で市長は旧鎌倉図書館の建物を保存すると表明しました。

行政は一度決めて走り出したら、その決定に瑕疵ありとひそかに気付いた場合でも変更しないのが通例です。

その意味で、今回の方針転換は画期的なことであり、TOTOMOのこれまでの歩みを振り返っても、2003年に図書館を含む生涯学習部の市長部局への移管を撤回させたことに並ぶ快挙と言っていいのではないでしょうか。

また、多くの歴史的建造物が鎌倉市だけでなく全国各地で次々と消えていく状況にあって、いったん解体が決まった旧鎌倉図書館の保存への方針転換は多くの歴史的建造物に関心を持つ人々に大きな勇気を与えるものだと思います。

市長に現況調査の最終報告書を提出

このような方針転換を促す大きな要因の一つが、5月16,17日に行われた専門家による無償での旧鎌倉図書館現況調査だったと考えられます。

同月27日には、旧鎌倉図書館は構造的に堅固に造られていて、しかも健全な状態に保たれているという主旨の中間報告書を市に提出したことは前号の会報で報告したとおりです。

そして7月31日に、多数の写真や図を含む90ページに及ぶ詳細な最終報告書を市長に直接手渡しました。面会時間は15分程度で十分な説明はできませんでしたが、外観の傷みはあるが構造的に安定しており、長期の使用に耐えられること、また登録有形文化財として申請するだけの価値ある建物であることを改めて主張しました。

これに対して市長は、調査結果をよく検討したうえで8月中には今後の方向性を明らかにしたいという慎重な回答に留まりましたが、この調査報告書およびTOTOMOのこれまでの募金活動を評価するようなニュアンスは感じとれました。

最終報告書は増刷してなるべく多くの人の手に渡るようにしたいのですが、頁数が多いため、とりあえず報告書の本編と資料編を分けて印刷し、印刷経費がかなり掛かるので有料で頒布することにしました。ページ数は同じくらいなので両方とも頒価を500円とし、販売収入から経費を除いた分は募金として基金に入れることにしました。入手希望の方はご連絡ください。

8月、9月に見学会を開催

昨年12月にTOTOMOの会員向けに、そして今年2月に一般向けに見学会を催しましたが、その後も見学を希望する声が届いているので、市の許可を得て8月22日と9月12日に見学会を実施しました。

それぞれ2回ずつ計4回行った見学会の参加者は、8月の1回目は15人、2回目は16人、9月の1回目は16人、2回目は多くて25人、総計72名でした。

見学方法は、まず館内をTOTOMOのスタッフが説明しながら見て回り、そのあとに7月のチャリティコンサートで菅孝能さんが講演したときの音声を流しながらそのときに使われた写真をスクリーンに映して見てもらうというかたちをとりました。

9月の見学会では参加者が多いので、1回ごとの参加者を2グループに分けて館内を回り、見学の冒頭に5月に放送されたTBSの番組「噂の東京マガジン」の旧鎌倉図書館を取材した部分をパソコンで見てもらい、最後のスクリーンを使っての説明はスタッフが行いました。

創建当時の姿をとどめている書庫の3層部分や畳敷きの明るく心地良い空間を醸し出している婦人読書室を見て参加者は一様に感嘆の声を発していました。また敷地内に立つ間島弟彦氏を顕彰する旌徳碑の巨大さに驚き、碑文や上部に刻まれた肖像のレリーフを感慨深げに見ていました。

市長、旧図書館の保存活用を表明

冒頭で述べたように、8月24日の定例記者会見で、市長は旧鎌倉図書館の解体・撤去方針を撤回し、保存活用に向けて旧鎌倉図書館の解体工事費分の減額(1326万円減)予算、耐震補強設計等業務委託料(3716万円)予算、そして旧鎌倉図書館を含めた歴史的建造物の保存費用を募る「景観重要建造物等保全基金」を創設する条例案を9月議会に提出すると表明しました。

鎌倉市景観重要建造物等保全基金条例の制定について 1 (PDF)
鎌倉市景観重要建造物等保全基金条例の制定について 2 (PDF)

新聞報道によれば、この記者会見で市長は「市民団体が保存のための募金活動にも取り組んでおり、市民と行政の協働による歴史的建造物保存の新たなスタイルにしたい」(毎日新聞)、「市民が保存を求めるだけでなく、積極的に寄付を集めている点を踏まえて判断した。建物の保存は市の魅力アップにもつながる」(読売新聞)と方針変更の理由を語ったとされています。

建築家による現況調査と並んで市の方針転換を促すもう一つの大きな要因はTOTOMOをはじめとする市民の募金活動にあったことがわかります。

前号で触れたようにチャリティコンサートで多額の収益金を得ることができたのも「鎌倉・文化の森」など他団体の協力があってはじめてできたことで、TOTOMOとして今後も募金活動に取り組んでいきますが、一団体の活動には限界があります。基金を創設するなら市は直接市民に広く呼びかけ募金を集める努力をしてほしいと考えます。

9月議会に向けてロビー活動

市長の保存方針が現実化するためには先に述べた予算案や基金条例案が議会で承認を得なければなりませんが、補強・補修のための調査・設計について市はどのようなイメージをもって業者に委託しようとしているのか、また基金条例案についても漠然とした規定になっていて運用の具体的な中身が不明です。

そこで、9月に入って市会議員へのロビー活動を行いました。議会中でしたが、4つの会派と2名の無所属議員に面談することができました。そこで訴えたのは以下の4点です。

・補強・補修工事にあたっては可能な限り創建時の姿を復元して欲しい。耐震工事のために書庫の3層をつぶすようなことは絶対やめてほしい。
・市に登録有形文化財の申請をしてほしい。申請が認められれば補助金が交付され維持管理費に充てられるし、将来的にもオリジナルに近い姿を維持できる。
・市民が基金に寄付する際、どの建造物のために使うか指定することも可能な運用基準を設けてほしい。
・こうした市民の意見、要望が反映されるような機会を設けてほしい。

以上のような点について各常任委員会の審議で市の考え方を確かめ、市民の要望を伝えてほしいとお願いしました。しかし、市議会は別の案件で冒頭の本会議から空転し、現在休会中です。すべての審議は10月20日以降に延期されました。

青山学院同窓祭に参加

同窓
9月23日に青山学院の同窓祭に参加してきました。いうまでもなく青山学院は旧鎌倉図書館の生みの親である間島弟彦氏の母校です。キャンパス内には間島氏が図書館として寄贈した建物が今も間島記念館として残されています。しかも国の登録有形文化財となっています。

7月のチャリティコンサートの司会をしてくださった田邊恵美さんより間島弟彦さんつながりで旧鎌倉図書館の募金のPRを青山学院同窓祭でしてはどうかという提案があり、同窓祭の幹事に了承をいただく交渉と当日の案内を卒業生の田邊さんにお願いしました。幸い了承がいただけたので、田邊さんの案内のもとに学長室をはじめ教室、ブース、模擬店などを回り旧鎌倉図書館のことをPRしてきました。

田邊さんの発案で、鎌倉市図書館100周年のポスターと飯野和好さんの絵を拡大したものを肩から掛けてキャンパス内を練り歩き、多くの人から声をかけられ、支援の温かい言葉をいただきました。同窓祭の約束事で募金をいただくことはできませんでしたが、多くの参加者にPR出来たと思います。

間島記念館を見学することができましたし、近くにある青山墓地の間島弟彦氏のお墓参りもして有意義な一日を過ごすことができました。