「旧鎌倉図書館の保存と活用を考えるシンポジウム」報告 〜旧鎌倉図書館の保存価値がより明らかになりました。
2015年11月29日
図書館とともだち会報175号掲載
TOTOMOの旧図書館保存運動を支援してくださった日本図書館文化史研究会からの提案で、11月28日に「旧鎌倉図書館の保存と活用を考えるシンポジウム」を共催で開きました。場所は鎌倉市中央図書館、参加者は35名です。発表者は筆者と日本図書館文化史研究会の小黒浩司氏(作新大学教授)の2名です。
私からは1911年(明治44)に創設されて以降の鎌倉の図書館史を簡単に触れたうえで、旧鎌倉図書館の建築物としての特徴、一年間にわたる保存運動の経過と今後の課題、現時点での中間的総括を含めた運動の意義について話させていただきました。
小黒さんからは近代日本の図書館建築の歴史的変遷や全国に現存する数少ない戦前期の木造図書館建築の事例について、それぞれの特色、保存・活用状況をお話し下さいました。
そしてそのことを踏まえて、旧鎌倉図書館を保存することの意義について次のように述べられました。
「戦前期でも関東大震災以後は鉄筋コンクリート造が多い、また閲覧室と書庫を分離する保存重視の建て方から利用重視の合築型の建て方に変化していった。
翻って旧鎌倉図書館を見てみると、建築工法的に当時すでに主流である鉄筋コンクリート造ではなく木造であること、平面構成的には閲覧室・書庫一体型であること、しかも木造でも書庫は荷重が大きくかかるため鉄筋コンクリート造にしている例はあるが、旧鎌倉図書館のように書庫を含めて木造の一体型という図書館は極めて珍しい。
創建当時の木製書架が書庫にそのまま残されているのも希少価値があり、入口のすぐ右側にある受付窓も図書館利用が有料だった時代の名残を示しており、戦前期図書館建築の最後を飾る貴重な文化遺産と言える。
また、当時主流でなかった木造という建築工法が選ばれたのはなぜかということも興味深い。建築資材の入手難、資金不足なども考えられるが、軍港があった横須賀が近いこともあり、要塞地帯法による制限が関係しているかもしれない。
その意味では一種の戦争遺産とも位置付けられる」。
これまで旧鎌倉図書館の特徴について創建時の姿を残す婦人閲覧室や書庫、和洋折衷の外観などに注目してきましたが、近代日本の図書館建築の流れのなかに位置づけ、建築工法ならびに平面構成の変化という新しい視点から旧鎌倉図書館を評価するお話は非常に新鮮でした。
関東大震災をはさんで図書館建築は煉瓦造・石造から鉄筋コンクリート造に変化しており木造はそもそも工法的に主流ではなかったこと、しかも閲覧室・書庫が一体となっている木造の図書館は稀有な例であることを知り、まさに目からウロコの思いです。
市の文化財課と登録有形文化財の申請について話をしたとき、職員から申請に当たっては文化財的な価値についてもっと肉付けが必要だと言われましたが、小黒さんの論証によって旧鎌倉図書館の文化財的な価値が一層明らかになったといえるのではないでしょうか。
その意味で旧鎌倉図書館の保存・活用に向けて意義深いシンポジウムになりました。